中国でVPNを使う方法・つながらないときの対処
中国本土のグレートファイアウォール下でもVPNを安定運用するには「渡航前準備」が9割。難読化モードを持つVPNの選び方、現地で繋がらないときの対処順、主力+予備の2系統運用まで編集部が実用的に整理します。
監修: VPN選び.jp 編集部
「中国に出張するので、向こうでもGoogleとLINEが使えるようにVPNを準備したい」――この相談、編集部にも年間を通じて届きます。中国本土でのVPN利用は、他の国とまったく事情が違うので、別記事として整理しておく価値があります。
結論から言ってしまうと、中国本土でVPNを安定して使うには、渡航前に日本国内で契約・設定・動作確認を済ませておく ことがほぼ必須です。現地に着いてからインストールしようとしても、その時点でVPN事業者の公式サイト自体にアクセスできなくなっています。
この記事では、中国のネット規制の仕組みを軽くおさらいしたうえで、現地で「繋がらない」になったときの対処、そして編集部が現実的に推奨している準備の進め方を書きます。なお、規制状況は数か月単位で変わるので、最新は出発直前にもう一度確認することをおすすめします。
中国のネット規制(グレートファイアウォール)の仕組みをざっくり把握
中国本土には「グレートファイアウォール(GFW、金盾)」と呼ばれる大規模な検閲システムがあります。これは単純なIPブロックだけでなく、
- DNSポイズニング(特定のドメインに偽の応答を返す)
- IPブロック(特定サーバーへの接続を遮断)
- SNIフィルタリング(HTTPS接続でも訪問先ドメインを検査して遮断)
- DPI(深層パケット検査)(VPNプロトコル特有のパケット形状を検出して遮断)
を組み合わせた多層構造になっています。とくに最後のDPIが厄介で、「VPNを使っている」こと自体を検知して遮断するレイヤーが存在します。
つまり、市販の汎用VPNをそのまま中国本土で使おうとすると、サーバーには繋がっても通信が拒否される、あるいは数秒で切られる、という挙動を起こしやすいです。
中国でも繋がるVPNの「条件」
中国で安定運用できるVPNには、いくつか共通する技術的な特徴があります。
難読化(Obfuscation)モードを持っていること
VPN通信を「通常のHTTPSトラフィックに見えるように偽装する」機能です。各社名前が違っていて、
- NordVPN:Obfuscated Servers
- ExpressVPN:自動難読化(プロトコル選択時に勝手に動作)
- Surfshark:Camouflage Mode(NoBordersモード)
- VyprVPN:Chameleon Protocol
など。これらは「VPNを使っていること」をGFWに気づかせない仕組みなので、DPIによる遮断を回避できる確率が上がります。
ポート443(HTTPS)を使うプロトコルが用意されていること
GFWはHTTPSの通信を全部遮断するわけにはいかない(Webそのものが止まるため)ので、ポート443を使うVPN通信は、相対的に遮断しにくい性質があります。OpenVPN over TCP 443番ポートに切り替えられるVPNは、難読化と組み合わせると安定しやすいです。
中国本土近隣(香港・台湾・日本・韓国)のサーバーが豊富
距離が近いほど通信遅延が小さく、検閲を回避しやすい傾向があります。「中国 → 米国西海岸」のような長距離経路は、途中で遮断される確率が上がります。
中国本土で「繋がる」と評判のVPN各社の体感差
編集部が複数回の中国出張・現地滞在者ヒアリングを通じて感じている、主要VPN各社の体感を簡単に整理しておきます。順位というより「向き不向き」の話として読んでください。
ExpressVPN は、難読化を意識せずに使えるのが大きな利点です。プロトコル選択で「自動」にしておくと、現地の遮断強度に合わせて勝手に切り替わる挙動が確認できました。上海・浦東のホテルで深夜にスマホで作業した際も、特別な設定をしないまま日本サーバーに繋がってGmailとSlackが普通に動いた、という編集部内のレポートがあります。とはいえ料金は高めで、コスト面では引っかかる人もいるはず。
NordVPN は Obfuscated Servers モードを手動で有効化する必要があります。設定さえ済ませてしまえば安定する印象で、価格と性能のバランスを取りたい人向け。ただ、初心者だと「どこを切り替えればいいか」で迷いやすいので、出発前に必ず日本国内で接続テストをしておきたいところです。
Astrill は中国在住の日本人駐在員から評判が高いVPNですが、料金が他社の2倍前後と高額で、短期出張で使うにはやや過剰感があります。長期駐在・赴任予定の方は検討対象に入れてよいでしょう。
Surfshark は NoBorders モード(Camouflage Mode)を持っていて、価格は安いほうです。正直なところ、現地での安定性は時期によってばらつくという声があるので、主力というより「予備のもう1社」として組み合わせる使い方が現実的だと考えています。VPN間の速度差についてはVPN速い遅いの基準に整理してあるので、合わせて参考にしてみてください。
渡航前にやっておく準備(これが最重要)
中国本土でのVPN利用において、もっとも事故が多いのが「現地に着いてから契約しようとして詰む」パターンです。
VPN事業者の公式サイト・App Store・Google Play は、中国本土からはほとんどアクセスできません。さらに、Apple は中国本土App StoreからVPNアプリの大半を削除しています(Apple ID の地域が中国に切り替わっていると、VPNアプリが見つからない/インストールできない)。
なので、日本国内にいるうちに次の4つを済ませる のが大原則です。
- VPNサービスを契約する(公式サイトでアカウント作成・支払い)
- 使うデバイスにVPNアプリをインストールする(iPhone は日本Apple ID で)
- 中国向けプロトコル/難読化設定をONにしておく
- 実際に接続してみて、サーバーが落ちないか動作確認
加えて、念のため 「予備のVPN」も用意しておく のが、編集部のおすすめです。1つのVPNが中国側で集中的に遮断されることがあるためで、主力+予備の2契約あると安心感がだいぶ違います。月数百円の追加投資で、現地で「全部繋がらない」リスクを大きく下げられます。
現地でVPNが繋がらないときの対処順
それでも、中国に着いてから「あれ、繋がらない」という事態は起きます。よくあるトラブル順に対処を書いておきます。
1. プロトコルを切り替える
VPNアプリの設定で、WireGuard / NordLynx → OpenVPN TCP(ポート443)、または難読化モードに切り替えます。汎用プロトコルが遮断されていても、難読化プロトコルなら通ることが多いです。
2. 別のサーバーに繋ぎ直す
香港・台湾・日本・韓国など、本土からの距離が近いサーバーを順番に試します。同じ国内でも「サーバー1」「サーバー2」のように複数あるので、番号違いも試す価値があります。
3. 予備のVPNに切り替える
主力VPNが完全に遮断されている場合、予備の別事業者VPNに切り替えます。事業者によって遮断状況が違うので、両方持っておくと「片方は通る」確率が上がります。
4. ホテルWi-Fi → モバイルローミングに切り替える
中国の一部ホテルでは、ホテル独自のフィルタリングが入っていることがあります。eSIM やローミングのモバイル回線に切り替えると、ホテル固有のフィルタを回避できることがあります。
5. しばらく待つ
GFWは時間帯によって遮断強度が変わることが知られています。とくに政治的に重要な日付(10月の建国記念日、3月の全人代など)の前後は遮断が強くなります。1〜2時間待つと繋がる、ということも実際にあります。
重要日程の前後はとくに遮断が強くなる
中国本土の遮断強度は、年間を通じて一定ではありません。とくに「政治的に重要な日付」の前後は、平時には繋がっていたVPNが急に通らなくなる、という現象がよく報告されます。
編集部が把握している範囲だと、10月初旬の国慶節(建国記念日連休)、3月の全人代(全国人民代表大会)の会期中、6月初旬、そして共産党の重要会議(党大会・三中全会など)の前後が、遮断強化の代表例です。広東省深圳の取引先オフィスに編集部メンバーが滞在していた際、ちょうど全人代の会期と重なってしまい、平時は安定して使えていたVPNが半日ほど全滞する、という経験もしました。
こうした時期に渡航せざるを得ない場合は、主力+予備の2社契約を必ず用意し、難読化プロトコル前提で使う ことを強くおすすめします。さらに、業務上のメール・チャットは日本国内のうちにオフライン同期しておく、現地で即時に必要な連絡先は WeChat 側にも残しておく、といった「VPNが半日通らなくても乗り切れる」備えがあると、精神的にだいぶ楽です。
中国でのVPN利用は違法?
これは聞かれることが多いので、編集部としての見解を簡単に書いておきます。
中国の現行法(2017年のサイバーセキュリティ法など)では、「政府の許可を得ていないVPNの提供・運営」が違法とされています。個人利用者の処罰は、現時点では極めて稀 で、海外の有料VPNを使った旅行者・出張者が処罰されたという報告は、編集部が把握する限り見つかっていません。
ただし、これは「絶対に大丈夫」という保証ではないので、
- 業務上どうしても必要な範囲で使う
- 政治的・宗教的に機微なコンテンツを現地で発信しない
- 中国国内サーバーには接続しない(日本/香港経由に留める)
くらいの配慮はしておくと、リスクは現実的なレベルに収まります。
WeChat・Alipayと日本サービスを併用するときの落とし穴
中国出張で見落とされがちなのが、「VPNをONにしたまま WeChat や Alipay を起動すると、中国側サービス側で挙動がおかしくなる」というケースです。
WeChat や Alipay は中国本土サーバーに接続して動くサービスなので、VPN経由で日本や香港のIPから接続すると、ログイン時に追加認証を求められたり、決済が一時的に弾かれたりすることがあります。一方で、Gmail・Slack・LINE・Google Drive などはVPNを通さないと中国本土からは繋がりません。
この2つを両立させるには、「中国サービス用の素のネットワーク」と「日本サービス用のVPN接続」を行き来できるようにしておく のが現実的です。具体的には、
- 主回線(中国SIM/ホテルWi-Fi)はVPN OFFのまま WeChat/Alipay 用に残す
- 業務用のスマホやPCでVPNを常時ONにし、日本サービス専用にする
- 1台運用の場合は、VPNアプリのワンタップでON/OFFを切り替える運用に慣れておく
という分け方が、編集部としてのおすすめです。とくに決済の絡む Alipay は、IP がいきなり日本になっていると本人確認のためのSMSが飛んでくることがあり、その確認用SMSが日本回線に届かず詰む、というトラブルも起きえます。VPNの基本的な設定手順はVPNの設定方法に整理してあるので、出発前に一度ON/OFF操作を体で覚えておくと、現地で慌てません。
編集部おすすめの準備チェックリスト
最後に、中国本土に渡航する人向けの実用的な準備チェックリストを並べておきます。
- 日本国内で主力VPNを契約済み(公式サイトから)
- スマホ・PC双方にVPNアプリをインストール済み
- 難読化モード/中国向けプロトコルが有効になっている
- 日本国内で「香港サーバー」「台湾サーバー」への接続テストが成功している
- 予備の別事業者VPNも契約済み(最低1社)
- eSIM またはローミング SIM の予備手段がある
- 業務メール・Slack・Google Drive など必要なサービスへのアクセスを確認済み
ここまでやっておけば、中国本土で「最初の1週間は全部繋がらず仕事にならない」という事態は、ほぼ避けられます。VPN選びの一般的なポイントはVPNの選び方5つのポイントを、無料VPNを検討している場合の注意点は無料VPNは危険?を、それぞれ合わせて読んでみてください。
なお、中国以外のアジア圏(タイ・ベトナム・インドネシアなど)は規制レベルが大きく異なります。東南アジアでのVPN事情は東南アジアのVPN事情で別途まとめていますので、東南アジア中心の出張・旅行ならそちらが参考になります。
中国出張前に済ませるVPN準備チェック 所要時間の目安:約30分(出発前)
-
1
主力VPNを公式サイトで契約する
難読化モードを持つ主要VPN(NordVPN / ExpressVPN / Surfshark など)を公式サイトで契約。App Store経由ではなく公式サイト経由を推奨。
-
2
スマホとPCの両方にアプリをインストール
iPhone は日本のApple IDで App Store からインストール。Android は Google Play から。Windows / Mac は公式サイトのインストーラを使用。
-
3
難読化モード/中国向けプロトコルを有効化
VPNアプリの設定から、難読化系の設定をON。香港・台湾・日本サーバーで接続テストを実施。
-
4
予備のVPNをもう1社契約しておく
主力が遮断された場合に切り替えられるよう、別事業者のVPNを月額プランで追加契約。日本国内で接続確認まで済ませます。
-
5
eSIM/ローミング SIM の予備手段を確保
VPN全滅時のフォールバックとして、ahamo・楽天モバイル・国際eSIMなどでローミング可能な回線を1つ確保しておきます。
よくある質問
- Q 中国でVPNを使うのは違法ですか? ▼
- Q 現地で契約・インストールはできませんか? ▼
- Q 難読化モードはどのVPNにありますか? ▼
- Q 1つのVPNで足りますか?それとも複数契約すべき? ▼
- Q 現地で完全に繋がらないとき、最終手段は? ▼